無期限先物 DEX のしくみ · 無期限先物 · 3/4
証拠金と清算
無期限先物を強力にし、同時に危険にもしているのがレバレッジです。証拠金と清算の理解は欠かせません。トレーダーにとっては生き残るため、市場の運営者にとっては市場の支払い能力を保つ仕組みそのものです。方向の読みが正しくても、ポジションの大きさを誤れば、読みを外したときと同じくゼロになりえます。
証拠金とは
証拠金は、レバレッジをかけたポジションを持つために預ける担保です。取引の全額ではなく、その一部を差し入れます。証拠金は、損失を受け止めるためにあります。
$100,000 の BTC-PERP のポジションを持ちたいなら、次のようになります。
- レバレッジ1倍: $100,000 が必要(レバレッジなし、現物と同じ)
- レバレッジ5倍: $20,000 が必要
- レバレッジ10倍: $10,000 が必要
- レバレッジ40倍: $2,500 が必要
証拠金は、自分が負うリスクの持ち分です。損失が証拠金に近づくと、まずいことが起こります。
当初証拠金と維持証拠金
レバレッジをかけたポジションには、大事な基準が2つあります。
当初証拠金(IM): ポジションを持つときに必要な最低限の担保です。notional / leverage なので、選んだレバレッジで決まります。上限は、その資産の最大レバレッジです。
維持証拠金(MM): ポジションを持ち続けるために必要な最低限の担保です。いつも当初証拠金より低くなります。Hyperliquid では、その資産の最大レバレッジでの当初証拠金の半分に設定されています。つまり、自分が選んだレバレッジではなく、資産によって決まります(証拠金の資料)。
Hyperliquid の BTC-PERP の例です(2026年10月時点。稼働中の meta エンドポイントと証拠金の段階より)。
- 最大レバレッジ: 想定元本 $150M までのポジションは40倍(それを超えると20倍)
- 維持証拠金: 1.25%(40倍での当初証拠金 2.5% の半分)
- $100,000 のポジションを10倍で持つなら、$10,000 を預けます
- 純資産が $1,250 を下回ると、ポジションは清算されます
清算のしくみ
清算とは、純資産が維持証拠金の要件を下回ったときに、ポジションを強制的に閉じることです。Hyperliquid での流れは次のとおりです(清算の資料)。
- $60,000 で $100,000 の BTC-PERP を買い、分離証拠金 $10,000(10倍)を置きます
- BTC が約 $54,700 まで下がります(最後の取引価格ではなく mark 価格で見ます)。純資産は維持証拠金の $1,250 ほどになります
- 清算の仕組みが、そのポジションの成行注文を板に出します。$100,000 を超えるポジションでは、最初の清算注文で出すのは20%だけです
- 板で十分な量が閉じられれば、残った担保は手元に残ります。Hyperliquid は清算の手数料を別に取りません
- 板が吸収しきれないまま純資産が維持証拠金の3分の2を下回ると、backstop 清算が起こります。ポジションは清算用の vault(HLP の一部)に移り、残りの維持証拠金は戻りません
backstop は取引所の緩衝材で、他の取引所が保険基金と呼ぶものにあたります。それでも足りず、口座がマイナスになると、自動デレバレッジ(ADL)が働きます。反対側で利益の出ているポジションを、利益とレバレッジの順に、直前の mark 価格で閉じます。これで取引所が不良債権を抱えることはありません(ADL の資料)。HIP-3 の各 DEX は、クロス証拠金を有効にした資産のために、チェーン上に専用の backstop 清算の仕組みを持ち、足りなければ ADL に移ります(HIP-3 の資料)。
クロス証拠金と分離証拠金
これは、どの無期限先物 DEX でも、トレーダーが下す特に大事な判断のひとつです。
分離証拠金
- ポジションごとに専用の証拠金があります
- ポジション A が清算されても、ポジション B には影響しません
- 1回の取引で失いうる最大額がはっきり分かります
- 長所: リスクを切り分けられる。最大損失がはっきりする
- 短所: 資金効率が低い。口座に余った資金がたくさんあっても清算されることがある
クロス証拠金
- すべてのポジションが1つの証拠金を共有します(口座の残高)
- あるポジションの利益で、別のポジションの損失を埋められます
- 残高全体が証拠金として働くので、清算されにくくなります
- 長所: 資金効率が高い。不要な清算が減る
- 短所: 1回のまずい取引で口座全体を失いうる。清算が連鎖する
Hyperliquid では、クロス証拠金が既定です。一部の資産は strict isolated(証拠金を引き出せない)です。HIP-3 の DEX は「クロスなし」の設定にも対応しています。HIP-3 の資産でクロス証拠金を有効にすると元に戻せず、バリデーターの適格基準を満たす必要があります(証拠金の資料、HIP-3 の資料)。
清算の具体例
どちらの例も、Hyperliquid の ETH-PERP の設定(最大レバレッジ25倍、つまり維持証拠金 2%)と清算価格の式を使います。
例1: 分離証拠金で買い
- 建てる: $3,000 で ETH を10倍で買い、分離証拠金 $1,000
- ポジションの大きさ: $10,000
- 清算価格: 約 $2,755
- 最大損失: $1,000(分離証拠金の分)
- 口座の残り: 影響なし
例2: クロス証拠金で買い
- 口座の残高: $3,000
- 建てる: $3,000 で ETH を10倍で買い、当初証拠金 $1,000
- ポジションの大きさ: $10,000
- 清算価格: ずっと低い(約 $2,140)。$3,000 全額がポジションを支えるためです
- 最大損失: $3,000(口座全体)
クロスのポジションでは、設定したレバレッジは清算価格を変えません。変わるのは、残高のうち当初証拠金として確保される額だけです。クロス証拠金では読みが当たるまでの余裕が大きくなりますが、失いうるのは口座全体です。
清算の連鎖
レバレッジのかかった市場で特に危険な現象のひとつが、清算の連鎖です。
- 価格が急に下がり、買いポジションが清算されます
- 清算は成行の売りなので、価格をさらに押し下げます
- 下がった価格が、さらに清算を引き起こします
- その清算が、価格をもっと押し下げます
- 連鎖が尽きるまで繰り返します
暗号資産で激しいヒゲが出るのはこのためです。頑健な mark 価格、大きなポジションの部分的な清算、backstop 清算の仕組みといった設計は、連鎖を和らげるためのものです。ただし、なくすことはできません。板が薄いと悪化します。
市場の運営者にとっての意味
HIP-3 の市場を開くなら、こうした調整手段のいくつかは運営者のものです(HIP-3 の資料、運営者の操作)。
- 最大レバレッジと証拠金の段階: これが維持証拠金を決めます。薄い市場や値動きの激しい市場で高いレバレッジを許すと、ポジションは健全な状態から一気に backstop や ADL まで落ちます。
- オラクルの質: 清算は mark 価格に従い、mark 価格は運営者のオラクルの上に作られます。操作できるオラクルは、清算を引き起こす武器になります。
- 建玉の上限: 建玉に上限を設ければ、連鎖のときに解消しなければならない量を抑えられます。
- 証拠金の方式: 分離証拠金のみの市場は被害を閉じ込めます。クロス証拠金は一度有効にすると元に戻せず、バリデーターの基準を満たす必要があります。
- 流動性: 清算はまず板に出ます。相場が荒れている間も注文を出し続けるメイカーがいなければ、より多くのポジションが backstop や ADL まで落ちます。
証拠金と清算は機械的です。感情ではなく規則に従って動きます。規則を学べば、リスクを管理できます。無視すれば、市場が痛い形で教えてくれます。